訪問記:CatSci 社 (Cardiff, Wales) -英国の急成長企業訪問記

創薬向け化合物合成の最適化と量産設計をサポートする化学合成のプロフェッショナル集団


2021年11月、BiospireはWales (ウェールズ) の首府である Cardiff (カーディフ) に拠点を構えるCatSci社を訪問した。

Cardiffはロンドンからほぼ真西に位置する大都市で、ヒースロー空港からは約2時間で到着する距離にある。久々の訪問につき、相手に迷惑とならないよう、COVID 検査を事前に行い、陰性を確かめた上でカーディフに向かった。予定より15分ほど早くに到着したため、CatSciが入居するビジネスパーク内を散策した。カーディフ市街からは車で15分程度に位置する “Capital Business Park” 内に位置する。


CatSci社では、本面談をアレンジしてくれたJenny Wallis (Business Development Manager) が出迎えてくれた。面談には Simon Tyler (Co-founder 兼 COO), Sofia Papadouli (Marketing Manager) も加わり、雑談と近況報告の後、約1時間半のインタビューを開始した。



なぜカーディフに拠点を構えているのですか?ビジネスを行う上での利点と欠点はありませんか?


この手の質問は何度も聞かれているらしく、まずはJennyが笑顔で切替してくれた。

「創業の経緯は、元AstraZeneca社がBristol (ブリストル) に構えていた研究所の閉鎖に伴うもので、そこに在籍していた化学合成のエキスパートがCatSci社を興したのがきっかけなのです。Bristol とCardiff は、湾を挟んだ対岸にあり、車で45分ほどで往来ができます。Cardiff大学との共同研究や、Wales政府からの支援等もあり、Cardiff での操業を行うことにしました。研究開発の拠点はCardiffである一方、ビジネスデベロップメントの担当は北米、欧州、英国に拠点を有しているため、ビジネス的なデメリットを感じたことはありません」とのこと。更に分析センター的機能は、London近郊に構えているとの追加情報。



CatSci社全景



どの分野からの経験者が多いチームですか?


入構時に何名かの研究者とも挨拶を交わしたが、皆フレンドリーな感じの方ばかりだった。彼らの主な職歴等については、Simon が答えてくれた。


「研究者の殆どがChemist (化学専攻) で、8割程度がPhD (博士号) を有しています。ポストドクなどの研究者からの入社もある一方で、創業時からの研究者も多く在籍しており、彼らはAstraZenecaの元研究者である場合が多いです。CatSciの最大の資産は研究者の頭脳であり、この資産を基に創薬向け化合物を合成する複雑な経路の最適化などを行うことが出来ているのです。」というCOOの立場からの模範的なコメントを得た。



ケミストを中心とする研究者チーム。内部のコミュニケーションも活発に行われていた。



CatSciというキャッチーな社名の由来は?


筆者はCatSci(キャットサイ)が最初上手く発音できずに、「キャッツアイ」等と滑っていたが、由来を尋ねたところ、もともとは “Catalyst Science Innovations” という比較的長い社名だったとのこと。これが略され、CatSciが正式な社名になったとの経緯。引き続き触媒、つまりはCatalystを介した化学合成プロセスの最適化を社是としている企業であるものの、現在では創薬の最適化全体をカバーする企業に成長しているため、触媒のみならず、材料 (material)、分析 (analytical)、収率向上 (yield optimisation)、更には環境負荷の少ない合成方法 (green processing) を駆使した「総合創薬CRO」として、業績を急拡大させている。



事業の急成長の理由は?


Simon: 「多くのメガファーマや新興系バイオ企業において、化学合成プロセスの最適化の多くを専門的CROを介したアウトソーシングに頼る構図にシフトされた影響も大きいが、製薬企業単独では出来なかったことを多く解決してきた実績が、時間を掛けながらも評価されてきたと自負しています。」


① バーチャルコンパウンドの化学合成

いわゆるAI創薬の活性化により、理論的には薬効が期待される化合物が次々と見つかる中、それらの実合成 (synthesis) の難しさや複雑さによる壁がしばし指摘されている。ときには計算上で見出された化合物の化学合成を検討した際に、天文学的なコストが算出されることもあり、このことがAI創薬の実現化・加速化に影響を与えていることは否めない事実である。こうした課題に対し、若干古典的な手法ではあるものの、経験とノウハウを活かしたエキスパートがチームを組み、最適な合成方法を検討化する方法が改めて見直されており、こうした課題に応えられるプロフェッショナル集団であるCatSciの価値が更に向上している。


② 合成プロセスの高機能化・最適化

例えば既存の合成プロセスにおいて、5ステップの工程が必要となる化学合成を、2ステップや3ステップに単純化するといった作業工程の見直しは、最初の合成プロセスを見出した研究者から出てくることは稀である。敢えて合成プロセスの見直しを第三者機関である

CatSciに振ることにより、全く新しい発想の下、見直しが行われ、開発者が考えられなかった効率化が見出させるといった実績を多々有しているのがCatSciの特徴でもある。


③ グリーンプロセス(低環境負荷合成法)

いわゆる「環境に優しい合成方法」を検討する必要性が近年高まっているものの、これらを専門的に取り扱う部署が製薬企業内に存在することは多くない。製薬企業内において、SDGsやCRS(コンプライアンス)を取り扱う部署があったとしても、化学合成の専門家と直結している場合は多くなく、アウトソーシングにより製造法の見直しを行うメリットが評価されています。


④ 合成CRO (CDMO) への教育と継承

製薬企業は研究開発に専念し、実際の合成はCDMO (contract development and manufacturing organisation) と称される外部委託期間に任される。CatSciにより最適化されたプロセスは、プロジェクトスポンサー企業の許可を得る形で、CDMOにもそのSOP (standard operation processes) が引き継がれ、見直された合成方法をノウハウと共に、CDMOにも還元できる契約体系を基本としている。これにより、製薬企業の負担は大幅に軽減され、最適化または低環境負荷による合成方法がCDMOに直接的に譲渡される。



CatSciの基本的な契約スキーム。CDMO(合成会社)にも人員を派遣して、最適化された製造工程表(SOP)をもとに実践的なプロセス開発までサポートする点が興味深い。


基本的な契約プロセスは?知財の取扱いは?


全ての取引において、契約締結前に機密保持契約が交わされ、完全な形で顧客の既存合成法等の詳細は守られます。その後、必要に応じMTA (material transfer agreement) の締結も行われ、完全に保護された形で、顧客の化合物およびそれら全ての情報が保護されます。


契約は基本的にマイルストーン制にて締結され、複数の最適化プロセス等において、顧客との中間協議が設けられ、最適化プロセスの進捗および妥当性が「見える化」されている。更に契約中に見つかった新規知財案件については、全て顧客側に開示・還元され、CatSciがこれらを管理、保持することは行わない。同時に最適化プロセスにより実用化された化合物(薬剤を含む)の権利は全て顧客に譲渡され、CatSciがロイヤリティなどを要求することは行わない、いわゆる「プロジェクト完結型」として処理される点も、顧客にとっての採用基準となっている。


最後に日本の皆さんへのメッセージをお願いします。


CatSciは創業10年を迎え、特に過去数年における合成プロセスに関する総合コンサルテーションを含む事業シフトにより、大きく業績を伸ばしております。現在は欧米、特にアメリカの製薬企業とのプロジェクトが多く行われていますが、今回日本をベースにグローバルビジネスを広く展開するBiospire株式会社との提携を行い、日本戦略強化に乗り出します。日本の製薬企業様、バイオ系新興企業様においても、リード化合物の最適化や、グリーンプロセス見直しに対する関心は高まっているものと認識しており、私たちの経験・ノウハウおよび人的資源が、皆さまのお役に立てる日が来ることを願っております。今後、Biospireと共に日本語Webサイトの強化や、日本のエコシステムを通じたマーケットプレゼンスを高めていく予定です。ご不明な点等ございましたら、どうぞお気軽に下記連絡先までコンタクトを頂ければ幸いです。


【CatSci関連連絡先】

Biospire Japan Ltd. (日本戦略アドバイザー)

info@biospire.jp


英語でのバーチャルツアーもございます。こちらからご覧ください!

CatSci社Webさいとは、https://catsci.com/