オープンイノベーション - 企業担当者が今すぐすべきこと

松永昌之 - Senior Consultant Oxentia Ltd. / CEO Biospire Japan Ltd.





新年度、もしかすると4月から新しい配属が決まり、オープンイノベーション(OI)や新事業企画等を担当されている方、一体何から手をつければ良いのだろうと考えていないだろうか。更には既に複数年、新事業企画を担当されている方、有意義な事業を生み出せているだろうか。出せていないのであればその根本原因はどこにあるのだろうか。

本稿では、仕事柄、多くの企業のOI担当の方々と接している立場から、日本企業におけるOIの課題や対策について書きたいと思う。


「オープンイノベーション=スタートアップ企業発掘」という大きな誤解


企業のOI担当者とのヒアリングを行う際によく聞かれる内容のひとつに「自社に声掛けがあったスタートアップ企業と話を進めたところ、既に競合を含む他企業とのアライアンスを結んでいた」というのが代表例である。特に欧米系のスタートアップ企業を相手にした場合によく聞かれる相談案件だ。実はそのはず、「自社に声掛けがあった」という時点で、その案件は実はアウト、というか何年も遅れている状態なのである。担当者は、スタートアップ企業からの通常の営業アプローチを「オープンイノベーションのチャンス」だった勘違いしていたのかも知れない。スタートアップにとっては、早期の段階で別の企業とのアライアンスを結び、ある程度のビジネス的感触を得た段階で、その担当者に声掛けを行っていたのだとすると、それは、すなわち純粋な「営業」を行う状態としてのアプローチが行われたに過ぎない。

結論から述べれば、オープンイノベーションとは、企業が待ちの状態で、スタートアップ企業からのアプローチ後の折衝を行うのではなく、それよりもかなり早い段階において、早期の事業またはアイデアを見出し、優先的な交渉を開始することにより定義される、極めて戦略的なアプローチのことを指すのである。

下図は、私たちがよく利用するTRL=Technology Readiness Level という指標で、スタートアップやそれを評価する企業や投資家が客観的なビジネスステージを把握する材料として用いられる。1から9までに初期のビジネスステージが分類され(下図)、大雑把に言えば、1~3が研究段階、4~6が開発・スケールアップ段階、7~9が量産・営業体制強化段階といったイメージとなる。推察するに、先の典型的な失敗事例では、この担当者がはじめてその事業に接した時点では、既にTRLにおいては、8~9のステージに入っていたものと考えられる。



実際、欧米系のスタートアップ企業は、TRL=6~7付近で、市場成功性の高いアメリカなどのメガファーマやバイオ系企業との機密保持契約を結び、プロトタイプの評価を実施し、ある程度の市場性が見えた段階で、日本を含む他の地域へのアプローチを開始する。またスタートアップ企業にとっては、キャッシュフローが底をつき、最も恐怖とされるTRL4~6の段階(俗に「死の谷」や「Valley of death」と言われる段階)を回避するため、企業とのアライアンスを結び、倒産の危機からのリスクヘッジを図るというメリットも挙げられる。

すなわち、「企業型オープンイノベーション」とは、この状態よりもかなり前の段階でのアプローチを行い、例えばTRL=1~3の段階の "Pre-startup" の状態の事業(実際には事業化していないアイデアも含む)を取り込み、これに投資することが真のオープンイノベーションであり、これを強く訴えたいと考えている。


Pre-startup 発掘と初期交渉におけるリスク

では、何をどうすればTRLの若いアイデア・事業ネタを発掘できるのか?確実に言えることは、大企業という従来型の大義名分の下、情報を待っているだけでは魅力的な事業・スタートアップ企業は決してやって来ないということだ。企業型Grant(助成金)を与えたところで、資金に困ったスタートアップがやってくるのは明白である。繰り返しになるが、スタートアップ企業が貴社にプレゼンに来たときは、時すでに遅し。それは単なる営業ステージに移行しているビジネスを見ているに過ぎない。あなたが現在、デスクトップベースの検索を行っていたとしても、その事業に対する優先的な発掘・交渉を行うには、遅きに失しているのかも知れない。往々にして、優れた技術を持っている発明者は、そのビジネス的・知財的な価値に気付いており、企業との安易な渉外交渉に応じることはあまりなく、門戸を叩いたとしても、丁重に断られたという事例を多く目にしている。


ビジネス型展示会よりも学会や併設の分野別セッションにビジネスチャンスあり

大型のビジネス展示会において良い交渉が出来たとしても、それは純粋なビジネスマッチングであって、オープンイノベーションを行ったとは結論付けることはできない。既に売りたい(紹介したい)側のスタートアップと、買いたい(マッチング相手が欲しい)側の企業が価値を共有する売り買いの場であって、それは企業にとってのイノベーションとは言い難い。魅力的な事業であるほど、競合は生まれ、貴社の新規事業導入としてのプレゼンスや可能性は、必然的に低くなってしまう。

筆者の経験から、より早期のマッチング(オープンイノベーションと定義できる形態)が生まれるのは、よりアカデミア色の強い学会や、それに併設される企業展示、更にはイブニングセッションなどのコアタイム以外の枠での交渉が行われることが多い。時には、博士課程やポストドクの若手研究者が企業担当者に直接熱意を伝えることもあれば、逆に企業担当者がポスターセッションなどに出向き、実際に実験を担当している研究者にズバリ「この研究のビジネス的価値は?」と問いかける場面も多く目にしている。学会は、beautify of science を追求するだけの場ではなく、数年後のビジネスを見据えたネタを評価するための戦場との意味合いも持つのである。逆に、今までビジネスに関する質問を受けたことのなかった研究者にとっても、企業担当者からの接触は大きな刺激となり、その後の研究活動や「出口戦略」について、より真剣に議論・考慮する機会となるのは興味深い。



"Physical" がムリならバーチャルでも

とは言っても、このコロナ禍、国際学会も殆どがバーチャルで行われ、なかなか上述のような直接の交渉を行う機会が激減しているのも事実である。そこで活用したいツールが、「エコシステムの最大限の活用」と、世界中で行われている「Webinarへの積極参画」が挙げられる。

エコシステムは、その種を取り巻く関係者 (stakeholders) から成り立つ集合体として近年その存在意義が高く認識されており、企業関係者・スタートアップ・アカデミア・政府等から構成される。日本では "LINK-J ライフサイエンスイノベーション・ジャパン" 等がよく知られる存在ではあるが、これらの各国・各地域に強いエコシステムが、他地域とのエコシステムとの協業を行い、スタートアップビジネスを今までにない速度で、他地域に展開するといった効果も認め始められている。

またWebinarは、企業の大小に関係なく情報発信できるツールとして、急速に活用されており、pre-startupを含む早期のビジネスの情報が、単独もしくはエコシステム等を介して世界中に発信されている。多くのWebinarにおいては、事後のネットワーキングセッションも設定されており、これを活用することにより、遠方にいかずともイノベーションを行っている研究者やPre-startup関係者との折衝を行うことが可能となっている。


地域に強いネットワーク型コンサルの活用

とは言うものの、現実は厳しいのが正直なところではないだろうか。上記プロセスを新事業企画やOI担当者が単独または数名で行うことは至難の業かも知れず、専門性、言語の壁、その他交渉能力等が求められる。

では、最初の「候補事業ネタ」を見つけるにはどうすれば効率よく進めることが出来るのか?ひとつの解として、各国・地域に強いイノベーション型コンサル企業とのタイアップを行い、効率的に初期ステージを進めるといった方法を紹介したいと思う。特にイノベーションに強い地域として知られる、ボストン・カリフォルニア(米国)、ゴールデントライアングル(英国)には、それぞれの大学をコアとしたエコシステムに強いネットワークを持つ専門家が多く存在しており、こうした機能を活用することにより、いわゆる「時間をお金で買う」ことが可能となる。国際間の移動が困難となり、直接交渉が更に難しくなっている昨今、こうしたコンサルを活用し、初期の候補事業のリスト入手を数ヶ月というスピードで実施し、速やかにマッチングに向けた交渉を開始するといったやり方も、今後現実的なソリューションとして加速化されるものと考えている。



Oxford において強い存在感を持つ Oxentia

Oxford は、言うまでもなく世界的なイノベーションの拠点として知られ、分野を超えた専門家や投資が集まる都市として知られている。また当地は、世界に先駆け大学発の知財をビジネス化した老舗としても知られいる。そのOxfordにおいて、長年スタートアップを含む初期ステージの事業案件を中心としたコンサルテーションを実施してきたOxentia社は、「研究ネタの事業化」「起業家トレーニング」「スタートアップ事業のトランスレーション(ビジネス的な成功に向けたプロセスサポート)」等に関するプロフェッショナルとして、各国の企業・政府と、当地から生まれる新規ビジネスのマッチング等を行っている。様々な専門性とビジネス経験を有するスペシャリストが、Oxfordのみならず、英国・欧州を中心としたグローバルイノベーションビジネスを監修し、またそれらのエコシステムの一員として、Pre-startupを含む早期の革新的技術を発掘し、有益な情報を還元するサービスを展開している。



延べ624名の聴講登録を頂いたWebinar "Oxford Evening" シリーズ

Oxentiaは、Oxford University Innovation (OUI) とLINK-Jとの共催として、4回シリーズに渡るWebinarを開催し、多くの反響を頂いた。そのアーカイブ版は、引き続きLINK-J YouTube サイトからご覧頂けるため、下記を参照されたい。

  • Ecosystem 編 https://www.youtube.com/watch?v=0-7q7aXu-v8&t=3146s

  • Open Innovation 編 https://www.youtube.com/watch?v=0MY93yQQWeY&t=427s

  • IP Strategy 編 https://www.youtube.com/watch?v=uPc9lRPGC1g

  • Intrapreneurship 編 https://www.youtube.com/watch?v=wtYhuduy-GY

Oxentiaでは近年特に日本企業におけるオープンイノベーションサポートに注力しており、製薬・化学・環境・エネルギー分野を中心とする複数の企業に対するサポートを行っている。また、企業型起業家 (intrapreneurship) に関するトレーニングも提供しており、企業においても特定のスキルを持った担当者がオープンイノベーションを担当するのではなく、会社全体が外部のイノベーションを評価・還元できるようなチーム作りを目指している。